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2007年4月 8日 (日)

最後の授業

今から35年以上前になるが、オジサンが通っていた中学校に、河合先生という男性の数学の教諭がおられた。

この先生は数学だけでなく、とても博学な方でいろいろなことを学んでいる人であった。英語の腕前も相当なもののようで、一度夏休みにハワイ大学の数学のセミナーなどにも参加したことがあった。当時はまだ英語のしゃべれる人は少なく、英語のできる数学の先生ということで、学校内では有名であった。

河合先生の授業は、順次生徒に質問をしながら生徒の理解度を確認して、授業を進めるというスタイルを取っていた。

いまでも1年生の最初のころに受けた授業は印象的でよく覚えている。最初の授業では席順ごとに名前の書いてある名簿をみながら、それぞれの生徒の名前を呼んで質問をしていったのであるが、次の授業の時はこの名簿を見ずに生徒の顔を見て、ひとりひとりの名前を呼んで質問しだしたのである。これには驚いた。当時はひとクラス50人弱の時代だ。なんと短期間にクラス全員の顔と名前を覚えていたのである。どのようにして覚えたのかはわからないが、生徒からすると先生に名前を覚えてもらえるというのは、「自分を見ていてくれる」という気持ちが持てて嬉しいものである。

しかもあとになってわかったのであるが、河合先生は1年生の8クラス全部を受け持っており、すべてのクラスで同じように、2回目の授業では生徒全員の顔と名前を覚えていたというのだ。もともと記憶力がよいのか、あるいは家に名簿を持って帰って、必死に覚えたのか、いまだに不思議である。

河合先生はとても教え方が上手だった。

我々生徒たちが飽きることのないように、ところどころにユーモアやジョークを織り交ぜ、数学の面白さを教えてくれた。わからない生徒がいると、授業が終わったあとでも、懇切丁寧に教えてくれる先生だった。

河合先生はどちらかというと、熱血教師タイプというよりも、温和な性格で飄々(ひょうひょう)とした感じの人で、あまり喜怒哀楽を表に出さない人であったが、生徒の信望も厚く人気のある先生であった。

オジサンが通った中学校では、先生たちは同じ学年を1年から3年まで教える方式を取っていたので、我々はこの河合先生から3年生になるまでずっと数学を教わり続けた。

3年生も終わりに近づき、それぞれが高校受験も終了し、卒業式まであと一週間を残すだけとなった。

大変だった高校受験も終わり、生徒たちそれぞれがほぼ希望の高校に合格して、やっと受験地獄から自由になった開放感に浸っていた。先生たちも生徒たちの心情を察してか、「高校受験をよくがんばった」ということで、最後の週の授業は、生徒たちがのんびりと過ごせるように、自習の時間にしてくれたりしていた。

最後の週のそれぞれの学科の授業もほとんどがそのように雑談と自習で終わり、残すはいよいよ最後の数学の授業だけとなった。

いつも生徒たちのことに気をかけてくれる河合先生だから、我々生徒たちは当然、河合先生から、「君たち、よくがんばったな」というやさしい声をかけられて、最後の授業も自習でのんびり時間が過ごせるものと思っていた。

ところが、河合先生は教室に入ってきて、起立と礼を終えたあとで、「はい、○○ページを開いて…」、と普通に授業を始めようとしたのである。

「えっ、普通に勉強するの!?!?」という感じだった。

我々生徒たちの不満がいっせいに爆発した。「河合先生、それはないぜ!」、「僕たちは高校受験でがんばったんだから、自習にしてくださいよ」等々、ブーイングが飛び交った。

その時だった。

雷光一閃

「ばか者!学問に終わりはない!」

まるで雷が落ちたかのような怒号が教室に響き渡った。

教室は一瞬にしてシーンと静まりかえってしまった。河合先生のあまりの怒気の強さに、我々生徒たちは圧倒されてしまった。

我々が河合先生にこのように大きな声で怒鳴られたのは、この時が最初で最後であった。いつも飄々として、喜怒哀楽を出さない先生のどこにこのような激しさがあったのか。

度肝を抜かれた我々に先生はこう言われた。

「君たちは学ぶことができる。これはとても幸せなことなのですよ。」

そして先生は「聞け、わだつみの声」という、先の第二次世界大戦で学業を想い半ばで終え、戦地に向かっていかなければならなかった学生たちの話をはじめた。それらの学生たちの多くは時間を惜しむかのように、出征する前日まで勉強したそうである。そして学徒出陣をした人たちの多くは日本に帰ってこれなかった。

「君たちは今できるのに、なぜ学ぼうとしないのか。」、河合先生は言われた。

そして、河合先生は静かな声で、「はい、○○ページを開いて、」と、何事もなかったように、いつもと変わらずに数学の授業を始めた。

以前、「5ドル紙幣の偉人」という投稿記事でも述べたことがあるが、何万言を費やしても相手に通じないこともあれば、短い言葉でもこころに響くことがある。このときがそうだった。

「学問に終わりはない」

この言葉は我々生徒たちの心に響いた。

この時の授業で、その後の人生観に影響をうけた生徒はオジサンだけではないと思う。それほどインパクトのある授業だった。

数学の最後の授業をふつうどおりに終え、起立・礼を済ませて教室を去っていく河合先生の後ろ姿にカッコよさを感じたのはオジサンだけではないと思う。

思うに、我々人間は常に学び続け、問い続けて行かなければならない存在なのである。知識が広がるたびに、我々の魂も高められていくのだろうと思う。

このことを教えてくださった河合先生には、いまでも感謝している。

以前、リウマチばあちゃんさんが、「英語のゴール」という投稿記事でこのように語っておられた。

英語学習のゴールなどない。つねに勉強をする過程があるのみ。

みなさん、このリウマチばあちゃんさんの学びつづける姿勢、我々も見習って学び続けて行こうではありませんか。

あとがき)

9ヶ月という長いようで短い期間でしたが、みなさんの応援でここまでこれました。ありがとうございました。

英語を読むことの楽しさ、ロングマンの使い方をお伝えしたくて始めたブログですが、オジサンのメッセージは届きましたでしょうか?

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皆さんお身体に気をつけて、またいつかお会いしましょう。

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